赤い電車のあなたへ



「家出をした手前、帰るに帰れなくてね。ここには春からお世話になっているんだ」


龍太さんは肩を竦めて微苦笑した。


「心配させて申し訳なく思ったけど、冬まではどうしても帰るわけにはいかなかったからね」


龍太さんは理由を明かさないけど、それはきっと恋した良子さんのため。龍太さんは優しいから、彼女のために一生懸命になったんだ。


わたしはすこし、良子さんをずるいと思った。


幼なじみという仲を使ったか、それとも龍太さんの想いに気づいていたかわからないけど。どちらにせよ、見知らぬ他人だったらしないことをした。


龍太さんの優しさを利用して、自分の本懐を遂げたという事。そして、用が済めばさっさと見捨てたという事実。


でなきゃ、こうして龍太さんがひとりの筈がない。


どんな事情があれ、わたしは良子さんをひどいと思った。利用するだけして捨てたなんてイメージが出来てしまう。


もちろん、そんなことは口に出せないけど。話を聞く限りは優しさはカケラも感じられなかった。


本当にそんなひとを龍太さんは好きになったのか、と疑問を抱かずにいられない。



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