赤い電車のあなたへ
「龍治は携帯電話を持っていたかな?」
龍太さんが訊ねてきて、わたしは「番号はわかりませんがそうです」と答えた。
「なら、一度前もって連絡したほうがいいな」
龍太さんは10円玉を取り出すと、診療所の待合室にある公衆電話に向かった。
いまどきテレカでもない小銭で動く電話も珍しい。
わたしは興味を抱いて少し後を着いていったら、待合室にある公衆電話は緑色で。しかもダイヤル式だった。
わたしが生まれた時はもうプッシュ式だから、指一本でジーコジーコと回すのも珍しい。
特に硬貨式の公衆電話自体がもうあまり見ないし。
そんな電話でも最新式の携帯電話と繋がる事がなんだか不思議。無線にしろ有線にしろ、電話回線には違いないから、それは当然なのかもしれないけどね。
「……ダメか。やっぱり電波が届いてない」
龍太さんがガチャンと受話器を置くと、受け取り口に硬貨が落ちてきた。
つまりはダメだったのか。
「仕方ないか。この辺りは駅の近辺しか繋がらないから」
龍太さんは苦笑いをして、わたしに椅子で待つように言った。
「申し訳ないけど着替えてくるから少し待っててくれないかな? さすがに白衣のままじゃまずいから」
「あ、はい」
わたしは頷いて待合室の長いすに腰掛けた。