赤い電車のあなたへ
7月~三日湖2
「お待たせ」と言った龍太さんは、Gパンとチェックのシャツというラフな格好で現れた。
「鞠ちゃんは足、つらいだろ? 自転車借りたから後ろに乗ってもらっても大丈夫かな?」
自転車のキーを指でくるくる回しながら、龍太さんはわたしを気遣ってくれた。
「あ……はい。大丈夫です」
わたしは龍太さんの優しさが嬉しくて、思わず頬が緩みそうになる。けど、それはいけないと頬を叩いて気を引き締めた。
「どうかした?」
ちょっとだけ怪訝そうな龍太さんの声に、わたしは急いで手を振り言い訳を出した。
「あ、すいません……何でもないです。ちょっとほっぺたがかゆくて」
「そう? 蚊にでも刺されたのかもしれないね」
龍太さんはそう言うと、ポケットから小袋を取り出した。それは錦織でできた巾着袋で、手のひらの半分くらいの大きさ。
龍太さんが差し出したそれを受け取ると、なにか香草のような樟脳に似た匂いが漂った。
これは? と龍太さんを見上げると、彼はその正体を教えてくれる。
「それはね、虫除け。入ってるのは数種類のハーブを組み合わせたもの。結構効くから持ってるといいよ。この辺りは蚊が多いから」