赤い電車のあなたへ
夏樹は突然現れた龍太さんを睨みつけていた。
「あんたが緑川龍太か?」
「な、夏樹!」
従兄の取った無礼な態度に、思わず非難めいた声を出してしまった。
でも、龍太さんは怒る様子もなく、淡々と対応する。
「名前を知られているなんて光栄だな。そう、僕は緑川 龍太。君が夏樹くんか。鞠ちゃんから話は聞いてるよ」
自転車に乗った時、ぼつぼつと話したのが役立った。
龍太さんにはわたしの周りの状況を少し話しておいたんだ。
「とてもしっかりして頼りになる従兄だと」
龍太さんが笑みを浮かべてわたしの教えた言葉を繰り返しただけなのに、夏樹は何が気に入らないか、ますます不機嫌な顔つきで口元を歪めた。
「ああ、そうだ。俺は鞠の従兄で幼なじみだよ。だから他人のあんたに口を挟んでほしくない」
夏樹はあくまでも血の繋がりという点を強調し、龍太さんが関係ない方向に持って行こうとする。
2人に挟まれたわたしはどう対応していいかわからず、ただおろおろと狼狽えてるだけ。
けど、龍太さんは静かに口を開いた。
「血の繋がりや絆は関係ないだろう?
選ぶのは鞠ちゃん自身。
大切なのは彼女がどうしたいかという望みや意識だよ。間近な人間ならなおのこと、それを汲んであげるべきじゃないか?」
平素な様子で龍太さんは話したけど、わたしは胸が痛んだ。
きっと龍太さんは良子さんの事を思い出してるんだ。
龍太さんに忘れられない良子さんに、ほんの少しだけ嫉妬した。