赤い電車のあなたへ
夏樹だって元々はキチッとした性格なんだ。きっと話せばわかってくれるはず。
わたしが夏樹を見上げながら待っていると、彼は大きく息を着いてわたしの頭をポンと叩いた。
しばらく視線をさまよわせて、やがてわたしをちゃんと見て口を開く。
「……悪かったな。つい感情的になっちまった。おまえがどれだけ一生懸命になってたか……分かってたのにな。それで余計に悔しくなった」
夏樹はわたしの頭に置いた手でくしゃっと髪の毛を乱し、複雑な顔で笑う。
「旅行……楽しめよ、鞠」
「う、うん」
わたしが頷くと夏樹は龍太さんに向き直り、軽く頭を下げた。
「すいませんでした。不愉快な気分にさせて」
「いや、僕も少し言い過ぎた。申し訳ない」
龍太さんが元の穏やかな笑顔に戻り、夏樹はすっかり落ち着いた。夏樹がもっと自分勝手だったら揉めただろうけど、彼は芯はそんなに悪くはない。冷静で大人びた一面もあるから、言葉を尽くせば解ってくれた。
やっぱり、わたしの好きな“夏樹お兄ちゃん”だ。
そう接するのは少し残酷なのかもしれない。
でも、でないと昨夜の全てが無駄になってしまう。
何のためにああまで言って異性としての関係を否定したのか解らなくなるもの。