赤い電車のあなたへ
わたしはドキドキしながら、龍太さんがおにぎりを口に運ぶ様を見つめた。
おにぎりを一口食べてもらう。ただそれだけのために、わたしの全神経が研ぎ澄まされて彼に集中する。
もしもマズいという表情やリアクションをされてしまったら……。
期待と不安が入り混じり、ドキンドキンと落ち着かない鼓動に息をのんだ。
龍太さんがおにぎりをパクッとかじり、咀嚼して飲み込む。たったそれだけの動作を見守る間が数分にも感じる。
ゴクンと龍太さんののど仏が動くのを見て、ああ。やっぱり男の人なんだなって違いを実感した。
「美味しいね。ちゃんと加減して握ってるし、塩加減もいい」
わたしが注視しているのを分かってたのか、龍太さんはおにぎりを持ってにっこり笑う。
「はっ……はい。ありがとうございます」
龍太さんの思いやりと笑顔に、速まる鼓動と苦しくなる呼吸。酸素不足みたいにクラクラした。
龍太さんはゆっくりゆっくりとひとつのおにぎりを食べる。
「龍太、食べるペース遅くないか?」
ガツガツと平らげる龍治さんが訊くと、龍太さんはこう答えた。
「心が籠もったお弁当だからね、ちゃんと味あわないと失礼だろう。それより龍治、おまえちゃんと感謝しながら味わって頂いてるか?」