赤い電車のあなたへ



「俺も着いてく!」


わたしを支えた龍太さんが歩き出すと、なぜか龍治さんが着いてきた。


「すいません、今日の宿泊を予約していた者ですけど。チェックインお願いします」


ほたるが受け付けカウンターに申し出て、人数の確認と名前等の記帳を促された。


先にほたるが記帳し、次に夏樹が。そしてわたしが住所と名前、電話番号を記入する。


最後に龍治さんの番になったんだけど、彼はなぜか渡されたペンを持って龍太さんを見た。


「おい、龍太。おまえ明日空いてるか?診療所休みじゃない?」


唐突な質問だなあ、とは思ったけど。わたしも出来たら明日も龍太さんと過ごしたいのが本音。

せっかく再会出来たのに、今日だけなんて寂しい。

なんて自分でも想像しなかったわがままな考えを抱いてしまった。


そんな貪欲な自分に気付いて呆れたし、勝手な感情だと諫めたけど。もしかしたら、これきり二度と逢えないのかも。そう思うとやっぱりこの手を離し難いんだ。


ずっと捜してやっとたどり着いたのだから。


知らず知らずのうちにわたしは龍太さんのシャツをぎゅっと握りしめた。


「いや、明日は8時出勤で仕事があるな。終わるのは7時になる」


龍太さんのそんな宣告に等しい言葉を聞いてたわたしは、やっぱりとがっかりした。


それじゃあ明日一緒に過ごすのはムリだよね。


でも。


「なら、決まりだな」


なぜか龍治さんはニヤリと笑うと、とんでもない事を口にした。


「龍太、おまえ今日俺の代わりに宿に泊まれ。鞠ちゃんと一緒にな」



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