赤い電車のあなたへ



途中で龍太さんがわたしを背負ってくれ、深い森の中を進んでゆくと急に視界が開けた。


足元がかなりじくじくと湿っぽくて、龍太さんが足を運ぶたびにつく足跡からじわっと水が溜まる。


そして見えてきたのは、小さな小さな湿原。


近くにせせらぎの音が聞こえて、知らない鳥のさえずりが青い空に溶けて消える。


苔むした倒木の前で足を止めた龍太さんは、わたしを倒木に下ろして座らせてくれた。


湧き出す清水がキラキラ光ってまばゆく、目を細めたわたしに龍太さんは教えてくれる。


「左のほう見てごらん」


左? なんだろう。


なんだかいたずらっ子みたいな明るさを含んだ、龍太さんの声。わくわくしているみたいな。


彼のそんな様子に興味を抱き、わたしは彼が指さす先を見て、あっと息をのんだ。


一見何の変哲もない雑草にも見える草が生えてた。葉っぱだけを見れば。


でも、違ったのは咲いている花。左右に分かれた白い花びらの縁に切れ込みが入り、まるで蝶みたいに開いているんだ。


真ん中にも膨らんだ花弁があって、それは鳥の姿を連想させた。


「わあ、かわいい! まるで鳥か蝶みたい。こんな花があるなんて」


興奮を覚えたわたしがはしゃぐと、龍太さんが教えてくれる。


「これはね、サギソウだよ。羽を広げた白鷺に似てるだろ?」



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