赤い電車のあなたへ
朝。
わたしは二階の自分の部屋で、少ない持ち物を前に嘆息した。
もともとおしゃれに関心があるほうじゃなかったし、多いとは言えないお小遣いは貯めたり本を買うだけに遣ってた。
だから、お母さんがたまに買ってくる服かお母さんのお下がりを着るのが常で。自分で服を選んで買うなんて、中学の時は全くしなかったんだ。
カレシも友達もいなかったし、作家のお母さんと出掛ける事もなく。休みの日はいつも家か図書館にいて、おしゃれする必要もなかったから。
でもまさか、こんなふうに悩む日が来るなんて思わなかった。
わたしは今日、あの人を捜すために赤い電車に乗るから。
万が一でも逢う可能性が捨てきれない以上、いつものTシャツと適当なスカートなんて格好を見せるのはイヤだと思った。
逢えなくて、もしすれ違ったりしても。あの人の目に映る自分がよりかわいく見えるように。
わたしはそんなむず痒い感情を抱えながら、タンスから夏物を引っ張り出した。