赤い電車のあなたへ
「夏樹、行こう。あたし達が立ち入っていい話じゃないから」
「あ……ああ」
ほたるが夏樹の手を取り引っ張る。深刻になりそうな話に周りのみんなは気を利かせたか、病室から出ていってドアが閉じた。
正直少しだけありがたい。なんだか龍太さんのことを他の人に聞かれるのは、わたしもつらいから。
良子さんのことで傷ついた龍太さん。それでもなおも彼女の事を憎からず思っている、と言葉や表情の端々から感じ取れた。
もしかしたら、今でも龍太さんは良子さんを……。
まだ彼女のことで頭がいっぱいになる時もあるのかもしれない。
いずれにしても、良子さんは龍太さんにとって一番大切な女性だと思う。
わたしは、どうなんだろう?
龍治さんの言うように、龍太さんの心の中に入り込めているのかな?
はっきり言ってしまえば、ちっとも自信なんて無い。
今まで他人とうまく関わって来られなかったわたしは、男性のちょっとした変化や機敏に疎い。男性は幼い頃にお父さんが亡くなったし、従兄の夏樹や叔父さんとは親しいけど、年に一度くらいしか会わなかった。
クラスメートとは仲良くなかったし。
本当に龍太さん本人がわたしと会えたことを喜んでいてくれるのかな、とわたしは疑問視していた。