赤い電車のあなたへ



みんなが出ていった後、わたしは組んだ手に視線を落とした。


まだ目覚めない龍太さん。親友の龍治さんは彼の恋人になってくれ、という。本当に本当なら嬉しい。


けども……。


わたしは視線を上げて龍太さんの顔をジッと見た。


目を閉じたままの龍太さん。きっと聞こえてないからこそ、言えることがある。


わたしは数度深呼吸してから、龍治さんに口を開いた。


「……正直言えばとっても嬉しいです。でも……」


一度言葉を切り、龍治さんを見て言った。


「わたしは……確かに龍太さんを……なので恋人なんて夢のようです。でも……」


ギュッと両手を組み直し、そこに力を込めた。


「わたしは……清川 鞠です。良子さんの代わりになんてなれません……」


自分では精一杯出した龍治さんへの答え。それは断ったも同然に受け取られても仕方ない。


はっきりと自分の気持ちを伝えてはないけど、身代わりは嫌だと告げた。


こんなわたしは相当なわがままなのかもしれない。
好きな人のそばに居たいなら、どんなかたちでもと望むのが一般的かもしれないけど。


わたしは、清川鞠として龍太さんと接したかった。


龍太さんを好きになったのは、平凡地味でもわたし自身だから。


わたしが良子さんの代わりになれないように、良子さんだってわたしの代わりにはなれないんだ。



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