赤い電車のあなたへ
わたしがそんなわがままを言ったからか、龍治さんも答えずに病室が静寂に包まれた。
ちょっとした物音を立てるのさえ躊躇う、静まり返った空気。
息を詰めて龍太さんを見つめていたわたしは、その空気に引き絞られそう。
「そりゃ、そうだな」
龍治さんがポツリと呟いたのは何時だったか。
「解ってはいたつもりなんだ。君が良子じゃないと……でも。残酷なようだけど……龍太は忘れてないみたいだから」
「……わかって……ます」
声が震えないように注意しながら、わたしはそう答えた。
龍太さんの気持ちは十分に解ってる。わたしがいくら彼を想っても、もはや側にいない女性には敵わないのだと。
龍太さんの心を占めるのは常に良子さんで、わたしなんてきっと1%も入り込めてなんていない。
自分にちょっとでも自信があるなら、彼女の事を忘れさせてみせる! と言えたかもしれない。
でも、現実は自信なんかちっともなくて欠点だらけの惨めなわたし。良子さんのような美人でもなければ思いやりに満ちてもいない。幼なじみという強みがあるわけじゃない。ともに過ごした時間さえあまりに短い。
何一つ、彼に響くものなんて持っていやしないんだ。