赤い電車のあなたへ
電話帳を開いたまま、首だけを捻って見てみたその瞬間、あれ?と戸惑った。
「鞠、起きたか。おはよう」
「あ、お……おはよう」
玄関に現れたのは、シャツの袖を肩口までめくり上げた夏樹だった。たぶん朝の農作業に行ってきたんだろうな。
けど、よく日に焼けた二の腕とか広い肩幅とか。なんだかわたしが知ってる“夏兄ちゃん”とは微妙に違うみたい。
それでも、やっぱりあの人の方が逞しいかな。わたしはそんな事を考えて顔が火照り、思わず目を逸らした。
やだ、やだ!
幼なじみのいとこの体を見て、あの人を考えてしまうなんて。
わたしったら……なんか変じゃない。
夏樹はたぶんお風呂場にまっすぐ行くはずだから、とわたしは屈んで電話帳を調べる振りをした。
だいたい夏樹にはわたしが話す事を聞かれたくない。
ほたるに服を借りるなんて今までなかったから、不自然だって。ぜったい追及されちゃうもん。
追い詰められたら話しちゃうかもしれない。
わたしを追及するときの夏樹は怖いもん。
いつもは優しいお兄ちゃんなのにね。