赤い電車のあなたへ
「鞠ちゃん、泣かないで」
龍太さんはそう言ってわたしの涙をハンカチで拭いてくれた。
「……っ……ごめんなさっ……」
止めようとしても溢れて止まらない。
やっと逢えたのに。
やっと見つけたのに。
龍太さんは行ってしまう。
もう、二度と逢えないの?
――行かないで。
そう、言いたかった。
でも、わたしは言えない。
わたしは龍太さんの友人でも家族でもないんだから。引き留める事なんかできない。
両手で顔を覆ってしゃくりあげるわたしに、龍太さんはどこまでも優しくて。
泣き止むまでずっとわたしの背中を撫でてくれた。
「泣かないで……僕は現実に帰るだけ。すべき務めを果たしてくるだけだよ」
「……もう……ここには戻って来ないんですか?」
わたしは堪えきれず遂に訊ねてしまった。
すると。
「ああ、恐らくは二度と戻って来ないだろうね」
龍太さんはきっぱりと断じてみせ、わたしは絶望感に駆られてまた泣いた。