赤い電車のあなたへ



「鞠ちゃん、泣かないで」


龍太さんはそう言ってわたしの涙をハンカチで拭いてくれた。


「……っ……ごめんなさっ……」


止めようとしても溢れて止まらない。


やっと逢えたのに。


やっと見つけたのに。


龍太さんは行ってしまう。


もう、二度と逢えないの?


――行かないで。


そう、言いたかった。


でも、わたしは言えない。


わたしは龍太さんの友人でも家族でもないんだから。引き留める事なんかできない。


両手で顔を覆ってしゃくりあげるわたしに、龍太さんはどこまでも優しくて。


泣き止むまでずっとわたしの背中を撫でてくれた。


「泣かないで……僕は現実に帰るだけ。すべき務めを果たしてくるだけだよ」


「……もう……ここには戻って来ないんですか?」


わたしは堪えきれず遂に訊ねてしまった。


すると。


「ああ、恐らくは二度と戻って来ないだろうね」

龍太さんはきっぱりと断じてみせ、わたしは絶望感に駆られてまた泣いた。


< 301 / 314 >

この作品をシェア

pagetop