赤い電車のあなたへ
「おい」
「えっ?」
アドレス帳に意識を向けてたから、まさか夏樹がまだいたなんて思わなくて。声をかけられたと軽く驚き顔を向けた。
でも、自分から声を掛けたくせに眉を寄せた夏樹はわたしを見てない。
汗を拭いた肩のタオルを握りしめて、台所へ通じる廊下の壁を睨みつけてるし。タオルを掴む手の人差し指は、なぜかトントンと生地を叩いてる。
「……どうかした?」
不思議に思って声を掛け、話をするように促した。
すると、いきなり夏樹は手にしたタオルをわたしの頭に被せ、台所に向かって歩き出した。
……いったい何なの?
わたしは意味がわからず、タオルに塞がれた口からくぐもった声を上げた。
「汗くさいってば! いきなりなにするのよ」
あたふたとタオルを取ったわたしの目に、台所の冷蔵庫から麦茶を飲み干す夏樹の姿が見えた。
ガラスポットからコップに注ぎ、2杯続けて空にする。
そんなに喉が渇いてたのか、ならまた麦茶沸かさないとな。なんてのんびり考えてるわたしに、夏樹はポツリと漏らした。