赤い電車のあなたへ



「家の……服……もう少し考えろよ」


「えっ、なに?」


「なんでもない」


聞き返しても夏樹はそれ以上話したくないみたいに打ち切り、冷蔵庫のなかを漁りだした。


「朝飯、俺が作るからおまえは洗濯しとけよ。9時には集合だから」


確かにもう朝ご飯の時間だ。廊下の壁掛け時計を見たわたしは、その前に大切な事をしなきゃとアドレス帳をそっと閉じた。


お洗濯をするなら、今すぐしなきゃ。電話する時間ないし、それに台所に夏樹がいる以上は話を聞かれたら困るし。


わたしはちいさく息を吐いてアドレス帳を壁に戻した。


そして、台所の夏樹に声を掛ける。


「汗だくだからお風呂入るでしょ? 沸かすね」


「あ……ああ。頼む」


どうしてか、夏樹の返事にすこし間があった。


夏樹が卵を割る音にグシャッと不自然な響きが混じる。まるで握りつぶしたみたい。


本当に、何なのかな?


理解できない夏樹の不自然な態度に首を傾げながら、わたしはお風呂場に走っていった。


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