赤い電車のあなたへ
ガス釜のお風呂はまだ使い方に慣れない。
それでも頑張らなきゃ、ね。
夏樹の後にわたしも入るつもりだから、浴槽に溜めたお水を足さなきゃ。
水道の蛇口のコックをキュッと捻って、思わず短い悲鳴を上げた。
まさか蛇口にホースが挿しっぱなしになってるなんて思わなかったし、しかもホース口はわたしに向いてた。
結果、わたしは勢いよく噴き出した水で全身びしょ濡れ。
混乱しながらもなんとか自力で蛇口を締めて、ホッと息をついた。
生地が薄いTシャツと綿のショートパンツで良かった。厚い生地だったら重くなるまで水を吸って気持ち悪いもんね。
蛇口からホースを抜いて水を入れ直し、すぐにお風呂を沸かし始めた。
さてと、と脱衣場にある洗濯カゴを抱え、台所を横切って勝手口から裏庭に出ようとしたのだけど。
「おい、鞠! おまえびしょ濡れじゃないか」
まな板に載せたネギを刻んでる夏樹から、ビックリするくらい大きな声を出された。
「あ、蛇口にホースがあるの見落として。いつものドジだよ。水が落ちないようにちゃんとシャツ絞ったし、水気も拭いたから」
そんなふうに大したことないよ、と説明しておいた。