赤い電車のあなたへ
「そうじゃない! おまえ……風邪ひくぞ」
包丁を置いた夏樹は呆れた顔をして、台所の布巾でわたしの頭を拭う。
「着替えて来い」
「平気だよ。わたし、丈夫だけが取り柄だし。この陽気だから外に出ればすぐ乾くって」
わたしはTシャツの胸元を指先でつまみ上げ、半ば乾いたそれをパタパタと動かしてみせた。
「ね? 大した事ないって」
軽くそう夏樹に笑ってみたのだけど。彼はじっとしたまま、やがてわたしから目を逸らす。
そしてスッと離れて居間に入ると、引き出しを開いた音がしてガサゴソと物音が聞こえてきた。
しばらくして服を手にした夏樹が現れ、わたしにそれを強引に押しつけた。
「祖母ちゃんの服だけど、それ着ておけ」
そう言った夏樹はわたしを居間に押し込み、そのまま襖を閉めた。
いったい何なんだろ?
夏樹から焦りを感じたけど、いったいなにに対して?
手にした服を広げてみると、綿の白いシャツと花柄の長いスカート。
古びたデザインだけど、夏樹がTシャツとショートパンツが気に入らないなら仕方ない。わたしは渋々着替えてから、洗濯をするため外に出た。