赤い電車のあなたへ








10分後、わたしは口を滑らせたことで落ち込んでた。


「ほら、見てみな! あっちの馬込山から日本アルプスに続いてるんだよ」


立野先輩の解説する声と、ほたるが上げる歓声。わたしはどちらにもなれない。


一応車窓に目を向けるふりはしても、窓際はほたるだからわたしからはよく見えないし。


普段だったら喜ぶ雄大な自然の景色を見ても、全然気持ちが浮き立たない。


「鞠、見てよ! あの岩すごいよね。本当に馬に見える」


なんてはしゃぐ友達に「うん、そうだね」と適当に相づちを打ちながら、わたしはいったい何をしにきたのかな? と虚しくなった。


そりゃあ、ほたるも立野先輩も夏樹も悪くはない。悪くはないけど……。


自分ひとりで来れば良かったな、とつくづく思う。


わたしが集団行動が苦手な要因のひとつ。
ひとりの方が気を使わなくて済むし楽だって現実。


みんなは大勢の方が楽しいなんて言うけど、それはきっと満足できる立場だから。


わたしみたいに一番の目的が霞んでしまう。そんな人間には苦痛でしかなくて。


それでもおかしく思われないよう、空気を壊さないよう周りに合わせてはいるけど。全然楽しくなんかなかった。




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