赤い電車のあなたへ
「あははっ、ホントだ。夏樹が言うとおりに鞠ちゃんってアヒルそっくり」
立野先輩までもわたしを笑う。
「いいかへんにしほ! くちひるのひる!!」
夏樹はいつまでも唇を引っ張ってるから、うまく発音できない。
本当にピンクのリップをしてこなくて良かった、と思う。
「いひゃい!」
唇を離した途端に今度はほっぺたを摘んで百面相させられた。
「あははっ、おたふくだ。本当に鞠は変顔が似合うよな」
「くくっ……夏樹、それはないだろ」
立野先輩も本気かどうか疑わしい注意をしながら、やっぱり夏樹と2人で笑う。
さ、最低っ!
男2人に変な意味で顔を弄ばれたわたしは、助けを求めてほたるを見た。
けれど。
ほたるの目はわたしに向けられてなかった。
ほたるの視線は……
まっすぐ夏樹に向けられてたんだ。
ただ偶然見たんじゃない。
切なくなる温かい気持ちが籠もった――。
そう、それは。
紛れもなく恋する瞳。
わたしも恋をしたから、わかった。