赤い電車のあなたへ
幾分か躊躇いもあった。
夏樹とツーカーな立野先輩に認めるのは、夏樹に認めると変わらない気がする。
もちろん夏樹は夏樹で立野先輩は立野先輩だから、全く別人だとわかってはいるけど。
わたしは素直に返事ができなくて、しゃがみ込むと意味もなく足元の草を千切ってみた。
夏草と土の青い匂いが風に乗り広がる。
眼下に広がる星間川の流れに目を落とせば、ウロコを輝かせた銀色の魚がゆったりと川藻の間を泳いでる。
魚はつがいなのか、もう一匹に近づいて仲良く並んで泳ぎだした。
あんなふうに容易く見つけられたらいいのにな。
はあ、とため息をついてブチブチと夏草をむしると川に放り投げた。
「八つ当たりはダメだよ」
立野先輩は道端に近づいて膝を屈めた。
「話したくないならムリに訊かないよ。でも、覚えててね。夏樹はいつでも鞠ちゃんが一番なんだから」
立野先輩はそう言うけど。
「それっておかしくないですか?」
わたしは立野先輩に反論した。
「わたしもいつまでも子どもじゃありませんし……夏樹だって好きな人くらいいるでしょう?
だったらその人が一番になるんじゃないですか?」