赤い電車のあなたへ
「ただ、平日でも500円。休日でも2000円までしか出せないみたいだけど」
立野先輩の追加情報は、わたしにとっては十分なもの。
家族経営が基本の朝露では、都会のようにアルバイトがたくさんあるわけじゃないし、あっても遠いコンビニくらいしかない。
時給の相場がいくらなんてわかんないけど、願ったりかなったりだ。
「わ、わたし……お店番をします!」
わたしは興奮から、思わず立野先輩に詰めよっていた。
働くことは生まれて初めて。自分が頼りない人間っていうのは理解してるけど、故郷でひとり頑張ってるお母さんにわがままを言って、余計な負担を掛けたくない。
そもそもわたしがあの人を捜すのは、わたしの勝手なのだし。今、売れない作品しか書けなくて苦しんでるお母さんに、心配はさせられない。
「よろしくお願いします!」
わたしは立野先輩に向けて頭を下げた。
「うん、いいよ。それじゃあ僕から幸子おばあちゃんに話をするから、明日からさっそく駄菓子屋に行くといいよ」
立野先輩がそう請け負ってくれ、電車代の目処がついたわたしは、またぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます! 頑張ります」
明日には初めてのアルバイトか。頑張って働こう! あの人に逢うためにも。