赤い電車のあなたへ
「で、肝心の電車の人捜しだけどさ。どうやって捜すんだい?手掛かりはほとんどないんだろ?」
立野先輩のそれは、打ち明けるなら当然言われると思った。
だからわたしはカバンを開くと、中から一枚の画用紙を取り出し立野先輩に見せた。
「……これは」
立野先輩が目を見開いてわたしを見返したから、頷いて説明を付け加える。
「もちろんわたしもただ漠然と探そうなんて思いません。
ずっと逢いたいと思うだけじゃ何にもならないから、記憶が薄れないうちに出来るだけ残そうと思ったんです」
立野先輩の手にあるのは、笑顔のあの人の絵。
朝露から帰ってすぐ描いたから記憶が鮮明で、隅々までよく思い出し描けた。
あのひとがいた夏の情景。
あのひとがいた電車。
あのひとの姿。
あのひとの笑顔。
納得できる絵が描けるまで、何十枚も描いては破り捨てた。
本当は今ある絵も満足出来やしないけど、あの時わたしが描け精一杯がこれだった。
なにもできないわたしの唯一の特技が、こういった絵なんだ。