赤い電車のあなたへ
展示館を回ってる最中、ほたるが後ろから話しかけてきた。
「鞠、ありがとう。お陰で夏樹先輩といっぱいお話出来た。
鞠の迷子の話も聞いたよ。むかし龍ヶ縁でなったって?」
「ああ……よ、よかったね!」
わたしはほたるが照れ笑いする様を見て、その喜びに水を差しちゃいけないと我慢した。
あのバカ夏樹っ! あれだけ口止めしたのになにぺらっと喋ってんのよ!!
なんてわたしが拳を握りしめてると、ほたるが続きを振ってくる。
「鞠は成果あったの?」
「ううん、全然。でも実はさあ、立野先輩に打ち明けちゃった」
「ええっ、本当に!?」
周りの目もあってほたるは控え目に驚き、わたしの手を掴んだ後に出入り口そばのベンチに移動させられた。
「それってどういうこと? まさか立野先輩にまで初恋の人って打ち明けた?」
「違うよ。ただ返してもらうものがある知り合いとしか言ってない」
ほたるに言ってから、すごく苦しい言い訳って気付いた。
こんな子どもじみた誤魔化しに付き合ってくれたから、たぶん立野先輩は夏樹より大人なんだろう。
アルバイトも紹介してもらえたし、そんな人が知り合いにいてよかったと思えた。