赤い電車のあなたへ






展示館を回ってる最中、ほたるが後ろから話しかけてきた。


「鞠、ありがとう。お陰で夏樹先輩といっぱいお話出来た。
鞠の迷子の話も聞いたよ。むかし龍ヶ縁でなったって?」


「ああ……よ、よかったね!」


わたしはほたるが照れ笑いする様を見て、その喜びに水を差しちゃいけないと我慢した。


あのバカ夏樹っ! あれだけ口止めしたのになにぺらっと喋ってんのよ!!
なんてわたしが拳を握りしめてると、ほたるが続きを振ってくる。


「鞠は成果あったの?」


「ううん、全然。でも実はさあ、立野先輩に打ち明けちゃった」


「ええっ、本当に!?」


周りの目もあってほたるは控え目に驚き、わたしの手を掴んだ後に出入り口そばのベンチに移動させられた。


「それってどういうこと? まさか立野先輩にまで初恋の人って打ち明けた?」


「違うよ。ただ返してもらうものがある知り合いとしか言ってない」


ほたるに言ってから、すごく苦しい言い訳って気付いた。


こんな子どもじみた誤魔化しに付き合ってくれたから、たぶん立野先輩は夏樹より大人なんだろう。


アルバイトも紹介してもらえたし、そんな人が知り合いにいてよかったと思えた。



< 59 / 314 >

この作品をシェア

pagetop