赤い電車のあなたへ
「……鞠」
ほたるが遠慮がちにわたしを呼んだ。
わたしは……。
うつむいたまましゃがみ込んで、ギュッと瞼を閉じてた。
大丈夫、気にしない。
涙なんか出ないもん。
わたしが勝手に好きになっただけ。
心を痛めるなんて……ない。
あの人が大人で、恋人がいてもおかしくないって。わたしはじゅうぶん理解してたじゃない。その上で逢いたいってお母さんに言って、朝露に来たんだ。
ただもう一度逢えたら。
それが希望だったんじゃないの。
落ち込まない!
ほたるや夏樹が心配しちゃうから。
特に夏樹はわたしが話さない限り纏わりついてくるし。
わたしは頭をぶるぶると左右に振り、両手でパンッと頬を叩いた。
ヒリヒリと痛むのはわたしの頬だけでいい。袖でゴシゴシと目元を拭い、勢いよく立ち上がって声を張り上げた。
「ごめん! そんな心配しないでよ。わたしは大丈夫だから。むしろ好きな人がいるってわかってすっきりした感じ。
あ、幸せなんだなって……わたしもよかったって思うよ」
こら、震えるな声!動揺してるだなんて思われちゃいけないのに。