赤い電車のあなたへ
「もうすぐホタルの季節だよね!」
「夏樹兄ちゃんホタル見に連れて行って! 母ちゃんは“危ないからダメ”って言うんだ」
もうすぐホタルが舞い始める時期だからか、子ども達が口々にホタルを見たいとせがむ。それも決まって夏樹に。
「夏樹兄ちゃん、モテモテですねぇ」
わたしがレジから子どもに囲まれた従兄をからかうと、夏樹はこちらを見てふふんと笑う。
「悔しかったら鞠もモテたらどうだ?」
すると、夏樹に群がってた子どものうち数人が駆け寄って、わたしの腕にしがみつく。
「あたし、鞠姉ちゃんの方が好きだよ」
「僕も~」
なんて姉弟でぶら下がってきてくれて。
「や~い、ふられたふられた♪」
わたしがからかうと、夏樹は泣く振りをした。
「ふんだ! いいんだ~~どうせ俺なんか~」
なんていじけたふりをした夏樹を心配した3歳の里奈ちゃんが、夏樹の頭をなでなでしてキャンディを差し出した。
「夏樹お兄ちゃん、泣いちゃダメだよ。里奈夏樹お兄ちゃんすきだもん」
嘘泣きなのに心を痛めてポロポロ涙を流す純粋さに、夏樹は胸を痛めたのか、ばつが悪そうに里奈ちゃんの頭を撫でる。
「ありがとう。里奈ちゃんのおかげで悲しいのなくなったよ」
そして、夏樹は微笑んで里奈ちゃんを抱き上げて肩車をする。里奈ちゃんもきゃあと歓声を上げて喜んだ。
「ずるい! あたしもぉ」
他の子たちも肩車を所望して、夏樹はたちまち引っ張りだこになった。
流石に夏樹も男の子だなあ、って思う。わたしはとても肩車なんて無理だもんね。