赤い電車のあなたへ
けど、今日は夏樹にまで渡してくれた。
「あ、あの。俺は……」
夏樹は恐縮して梨花さんに返そうとするけど、彼女は決して受け取らない。
「いいのよ。夏樹くんもこれからちゃんとお支払いするわ。あれだけ働いていただいて無償なのは申し訳ないし。
それに、夏樹くんのお陰で売り上げは上がったから。
よそのお母さん達も、夏樹くんがそばにいれば安心と思ってるのよ。遠慮なく受け取ってちょうだい」
「はあ……わかりました」
夏樹はぺこりと頭を下げてそれをポケットにねじ込む。
「ありがとうございます」
わたしもぽち袋をしまおうとして、いつもと違う手触りに中身を確認しようと封を開けば。
なかにあったのは、なんと2000円札!びっくりとどっきりだ。
「り、梨花さん……こ、こんなにいただいていいんですか?」
たった2時間しか働いてないのに、とおっかなびっくり状態のわたしが声を震わせながら訊ねれば、梨花さんはにっこり笑う。
「それはね、皆勤賞よ。雨の日も休まず働いてくれたから、そのご褒美。それに1ヶ月休みなしだったでしょう。明日と明後日はお休みしていいわよ。それくらいなら私がお店番代われるから」
「あ、ありがとうございます!」
わたしはぽち袋を胸に当て、初めて自分の力で手にした2000円札をいとおしく感じたし。梨花さんの気遣いに感謝をした。