赤い電車のあなたへ
お昼前の夏独特の強い日差しが、踏み切り向こうの川面をキラキラ輝かせる。
向かい側に広がるのは、すっかり穂が出た棚田と森と山々。
はるか遠くに青く霞む山脈は、残雪を頂く日本アルプス。
澄み切った朝露の風を感じながら、アオスジアゲハが留まった踏み切りの前に進むと、ちょうど警報器が鳴り始めて踏み切りの棒が降りてきた。
駅のそばだから仕方ないかな、なんて考える。
朝露駅はローカル線の鈍行が停まるから、駅に近づけば当然電車のスピードも落ちる。
わたしの目の前にある里見踏み切り。
わたしはここから車内の様子を見るのが昔から好きだった。
駅にギリギリ近いから、かなりスピードが落ちて車内の様子がゆっくり見える。
だから、わたしもいつものように車窓からの観察をしようと、何とはなしに電車を待った。
やがて、近づいてきた赤い電車。
赤を基本に緑のラインが入るその車体は、昔からちっとも変わらない。
わたしは車体を見てから、2両編成の1両目に目を向けた。