赤い電車のあなたへ
「夏樹先輩、今帰りですか?」
駅前の商店街を通ると、八百屋前でほたるが手を振って話しかけてきた。
「ああ」
なんか最近、夏樹はほたるに素っ気ない? って感じる。その分わたしは友達に話しかけた。
「ほたるは夕食の買い物?」
「そう! 聞いてよ~従弟くんがキュウリとトマトをおやつ代わりに食べちゃってさ。
サラダができないからってあたしが買い出し頼まれたの!
せっかくKIDがテレビに出るのにさ~」
「あはは、そりゃ災難だったね」
親友ほたるの意外とも言える趣味のひとつは、あるアイドルの音楽鑑賞。
とはいえ追っかけをするほど熱心でもなくて、実家から持ってきたCDを聴いたり出演時にテレビを観るくらい。
アルバムのジャケット写真を見たら、なんか夏樹に似てたな。もしかしてほたるが好きなタイプってやつ?
もちろん夏樹はそんなこと露にも知らないだろうけど。
「ほたる、わたし明日龍ヶ縁に行こうと思うんだけど……」
わたしは夏樹に聞こえないように、声を潜めて親友に打ち明けた。
実は先週の星が浜の探索で成果があって、係員さんが龍ヶ縁で撮影したケータイの写真に、あの人らしき後ろ姿がチラッと写ってたんだ。
係員さんにわたしが描いた絵を見せたら、たぶん間違いないと言ってたし。
やっと具体的な手掛かりが見つかりそうで、気が急いて仕方なかった。