赤い電車のあなたへ
「あのさあ鞠……」
ほたるは買い物かごを両手でもち、口ごもりつつも何か言いたげでいた。
商店街の街灯に照らされた頬は、心なしか赤い。言いたいけど勇気が要るし恥ずかしいんだ。
こういう時は引っ張ってほしいもんよね、とわたしはほたるに促してみた。
「ん、なに? どうかしたの? 勿体ぶってないで教えてよ」
肘でほたるのわき腹をつつけば、「ん」と観念した様子の親友はごくっと息を呑んでから、口を開いた。
「あのさ、ごめん。明日付き合えない」
あら、とわたしはがっくり来た。なんか重大な告白でもすると思えば、それだけ?
「ああ、別に気にしないでよ。もともと1人でも捜すつもりだったんだし」
わたしはほたるに大したことないよ、と言って肩をたたいた。
「で、ね……その理由なんだけど」
ほたるはまだもじもじしてるから、わたしは何気なく相づちを打った。
「夏樹先輩と……街に映画観に行くから……なんだ」
そう報告したほたるは、耳まで真っ赤になって、両手で顔を覆ってしまった。
「え……」
わたしはほたるから聞いた話が、にわかには信じられない。夏樹はそんなことひとこともわたしに言ってなかったからだ。
夏樹は、なにかあれば必ずわたしに報告をしてくれてたのに。