赤い電車のあなたへ
1両目はガラガラ。
こんな時期は学生もあまり使わないから、やっぱり旅行者が多いな。
あ、おっきなカメラ持ってる人発見。
カメラマンか趣味でやってる人かな?
白髪だしたぶん定年後の人だよね。やっぱり趣味かな?
なんていろいろ想像しながら、2両目に目を向けたわたしは。
青い帽子を被った男性に目が留まった。
たぶん年は高校生かそれ以上。肩幅が広くてがっしりして……大きなバッグを持ってる。
学生かなと思うけど、はっきりした年はわからない。
服装もあまり垢抜けてなくて、世間一般でいうイケメンとかじゃない。
よく見ても十人並みの容姿。
それでも目に付いたのは、なんだか気難しい顔をしてたから。悲しそうな怒ったような。絶望したような。
なんだろうと興味を持ったわたしは、その人ばかり見ていて。
しばらくしてから、雷に打たれたようなショックを受けた。
笑顔――。
その人がはにかんだみたいな、照れた笑顔をしたから。
優しくて、柔らかくて、あったかい。
わたしの胸に、確かに焼き付いた。
ほんの一瞬だけだったのに。
わたしは。
恋に落ちてしまったんだ。