赤い電車のあなたへ



自分では1時間くらい頑張った、と感じたけど。時計を見たら10分かそこらで崖の細い道を抜けた。


足がやっと平坦な道を踏みしめたとき、思わず走って座り込んだあと、思いっきり安堵の息をつく。


暑さとは別の意味でいろんな場所から汗がふきだした。荒くなった呼吸を整えながら周りを見渡すと、深そうな森がすぐそこにある。


でも、龍太郎おじいさんの家はどこにあるんだろう?


近くに畑があっていろんな作物がなってるから、人が住んでないはずはないと思うのだけれど。


しかも牛だけでなく馬、羊、豚、鶏までいるし。そんな光景を見ていたら、自給自足なんて言葉が頭をよぎった。


「ワン! ワン!!」


犬の吠える声?作物の向こうから聞こえるそれが気になり、わたしはそちらに回り込んでみた。


「ワン! ワン!!」


わたしに向かって吠えていたのは、たぶん雑種の薄茶色の中型犬。牙を剥いて唸りながら、繰り返し吠えていた。


「ま、待ってよ。わたしは龍太郎おじいさんに会いに来ただけ。訊きたいことがあるから」


わたしは犬に向かって一生懸命話をしたけど、吠える声はいつまでも止んでくれない。



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