赤い電車のあなたへ


あの人に逢えるならオシャレのしようもあるのだけど、実際に手掛かりなんてないに等しい。


朝露に来た3月からアルバイトしつつ頑張って探してきたけど、こうも情報が集まらないとかなり凹む。


貴重なアルバイト代を電車賃に遣うのは、なんだか無駄のような気がして。最近とみに“また無駄足かも”なんて言葉がちらちらと頭をよぎる。


けど、すぐに頭を振ってそんなこと考えちゃ駄目だよ! と自分を叱りつけておく。


もともとはわたしが勝手に始めた事なんだし、こんな風に雲をつかむ様なものだと理解して始めたはずだ。


それを、ちょっと見つからないぐらいで、何をぐずぐず言ってるの!と、重ねて自分に発破を掛けておいた。


ため息を着きながらお風呂の脱衣所のドアを開けたわたしは、はっ、と息を飲んで。その人と目があったまま体が固まった。


脱衣所にいたのは、服を着てる最中の夏樹。
部屋着であるジャージのズボンは履いてたけど、Tシャツはまだ手に取ったばかりで。


どうしてだろう。彼を見た瞬間、心臓がとっくんと鳴って、かあっと頭に血が上ったのは。


しばらくわたしと夏樹はお互いを見つめてて、お風呂場からポチャンと水音が聞こえた刹那。それが合図になったのか、やっと我に返った。


「い、いつまで見てんだよ」


「ごっ……ごめんなさい!」


夏樹に軽く怒られたわたしは、急いで脱衣所の扉を閉めた。


ドキドキドキドキ。


わたしは脱衣所の扉を背に、やたらと賑やかな胸を押さえて戸惑った。


鳴り止まないいつもとは違う鼓動。きっと、今のわたしは頬が赤らんでるよ。だって熱いもん。


なんでだろう?


なんでこんなに夏樹を意識するの?わたし。



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