赤い電車のあなたへ
“このまま見送れば見知らぬ人で終わってしまう”と気がついたわたしは、すぐに走り出した。
あの電車に乗った人をまた見たくて。
朝露駅までは走って1分。
運動が苦手なわたしなのに、それまでで一番早く全力疾走した。
春の体力測定より速く走ったと思う。
すこしでもあのひとの事を知りたいと思って、赤い電車を追いかけた。
朝露駅の平均的な停車時間は約3分。
どこでもいいから切符を買い、駅のホームに着いたらあの電車に飛び乗ろう!
今までのわたしから考えられないそんな大胆な行動を取ろうとした。
事実、駅のホームまでは赤い電車は停まってた。
けども。
わたしが飛び乗ろうとした寸前、ドアが閉まり電車は走り出してしまったんだ。
わたしは切符を持ったまま、その電車が最終駅まで運行されるという手がかりしか掴めなかった。
切符代にお小遣いを使い果たしてしまったわたしは、夏樹が迎えに来てくれるまで、駅のベンチでぼうっとしてた。
体中の血管が騒いだ熱さか、夏の暑さから来るのかわからないけど。
赤い顔をして反応が鈍いわたしを、夏風邪か日射病かと慌てた夏樹は、松田診療所に運び込んでくれたっけ。
その時少し眠った夢の中に出てきたのは、あの人のあの笑顔だった。