帝国湯へ、いらっしゃい
***
畳に寝転がれば見えるのは天井
「タケさん」
「あ?」
「囲い崩しに失敗したらどうなる?」
「逆襲されるリスクが高くなる」
………そのとおりだな
「龍ちゃんも自分で自分を囲ってみたらどうだ」
「え?」
「お前の場合、手が丸見えなんだよ」
「そう?」
「ちったあ、隠せ」
………なるほどね
「焦っちゃダメかあ」
「女も、将棋も同じだ」
「すっげー名言だなあ」
ちゃんと、考えろってことか
「ほれ、直ったんだ」と、見せてくれたのは
「あっ」
あの、一枚しかない写真
「全然違う」
「どうだ、すごいだろ」
「うん…すごい…」
顔が何となくしか分からなかったのに
ハッキリと見える
映っている二人はやっぱりどことなく似ていて
ああ、親子なんだなと思う
「喜ぶね」
「たぶんな」
「たぶん、じゃないよ絶対喜ぶよ」
一枚しかないのに甦った
「オレの知るかぎり、
直せないモノはこの世には一つしかない」
え?
「命だ」
…………
「それ以外なら大抵、努力で直る」
「…モノ以外でも?」
「ああ」
「例えば、壊れた人間関係は?」
「それも互いの気のもちようで直るだろ」
「不治の病は?」
「治るとは言い切れないが、本人も医者も努力はするだろ?」
…………
「壊さない努力と直す努力の二つがあれば
人は生きていける」
「……名言、2回目だね」
そして、いつかのように
「イエーイ」ってピースしてる
人生の先輩は偉大である
敵うわけない