帝国湯へ、いらっしゃい
参列が終わって、出口に行ったら
ゴンちゃんとオヤジさんがいた
「今、終わったのか」
「ん…」
「琴と交代するから」と、オヤジさんは帰っていった
どんなに親しい人が亡くなっても店は開くんだなあって呑気なことを思った
「龍ちゃん、帰るか」
「うん…」
何も話さずに
お互いに黒い服を着て
ただ、歩いた
「長生きはするもんじゃないな」
「……え?」
「長生きすると、人の死ばかりが目につくよ」
夏の夜には
「生きるほど、周りが減っていくよ」
セミが鳴いてる
「みんな、先に逝っちゃうよ」
タケさんはいないのに
セミは鳴いてる
「だから、長生きはするもんじゃない」
でも、今鳴いてるセミも1週間後には鳴いてない
「オレも、誰かがオレのことを覚えているうちに逝きたいよ」
必死に鳴いても1週間後には道に落ちてる
「じゃあな」と肩をポンと叩かれて、別れた