帝国湯へ、いらっしゃい

「本当はずっと調子が悪かったの」

「え?」


「たまたま、病院から出てくるのをあたしが見ちゃったの」


「……タケさんが?」

「うん」


「誰にも言うなって」

………


「病院に入れられたら、何も出来ないから」

「銭湯も将棋も、みんなにも会えないから」


………


「入院して我慢して生きるくらいなら」

「すぐに死んでもいいから、ここにいたいって」



琴の頬を拭った

涙で顔がぐちゃぐちゃになってたから



「だから、誰にも言うなって」


我慢できなくて
琴を抱きしめた


「その代わりに」


琴を慰めてやりたいのもあるけど


「オレの秘密、教えてやるからって」


俺が泣きそうだったから



琴を抱きしめれば

俺の涙は誰にも見られないと思って




琴の背中をさすったら

自分の背中も誰かがさすってくれたのような気がした
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