帝国湯へ、いらっしゃい
覚悟
ーーー
「お邪魔します」
タケさんの家
タケさんいないけど、タケさんの家
今日は初七日だから会いにきた
遺影を見て、やっぱり笑ってしまった
だって何度見てもこの写真ぼけてる
「わざわざ、ありがとね」
「……いえ」
タケさんの奥さんだ。会うのは今日でまだ2回目だ
「丁度、よかった。こっちに来てくれる?」
あの、いつも将棋してた部屋に通された
「これ、貰ってくれるかな?」
「………え…」
目の前にはいつもの将棋盤
「ウチの人間は誰もやらないから」
「でも、これは」
「いいの。貰って」
いいのだろうか
俺なんかが
こんな大事なもの貰ってもいいのだろうか
「友達が出来たって言ってたよ」
「え?」
「龍ちゃんのこと」
「この年で、若い友達が出来るとは思わなかったって」
「一人前に働いて、頑張って生きてるヤツだけど
若くて、無謀で、何も知らないから」
「見てて、危なっかしいって」
グッと握りこぶしを作った
「だから、オレが色々と教えてやらないとなって」
…………
「おかしいでしょ?ただの年寄りなのに
だから、龍ちゃんはきっと友達だって思ってないよって言ったんだけど」
「絶対、友達だって譲らなくて」
…………
「龍ちゃんにしたら、いい迷惑だよねえ?」
「迷惑なん、か、じゃ…」
「あらま、龍ちゃんまで泣いたらダメじゃない」
「……すみません」
「ダメよ。いい男なのに泣いたら台無しじゃない」
「……すみません」
「だから、貰って?ね?」
「ありがとう…ございます…」
将棋盤を受け取って玄関に戻った
「ありがとうございました」
「よかったら、また来てね」
あ……
「あの、」
「?なあに」
…………奥さんなら何か知ってるかも
「あの、賭けの話って知ってますか?」
「賭け?」
しばらく考えていてくれたけど
「ごめんね。分からないわ」
「……そう、ですか」
「大事なこと?」
「いえ、いいんです。失礼しました」
玄関を出た
やっぱり
琴しか知らないんだ