帝国湯へ、いらっしゃい

「その一枚しか、ないんだと」

「え?」


話を聞けば

この女の子は今は50歳過ぎになっていて
一緒に映る男性は父親らしい


父親は事業に失敗して
幼い頃に家を出ていった


それから、一度も顔を合わしていなかったが
ある日警察から連絡が来て父親の死亡を知る


父親は孤独死だった


部屋にはこの写真がノートに挟まれてあった



「父親と撮った、唯一の一枚なんだと」

「えっ…ネガとかは?」


「ない」



それって

「超重大な仕事じゃん」

「だな」


だな、って…


「一枚しかないなら、失敗したらどうするの?」

「だから、
失敗できないし、させないし、しない」



…………

「自信あるんだ?」

「ねえな」





「でも、やるしかねえだろ」


「……か、格好よすぎでしょ」と言ったら

「イエーイ」ってピースしてるし


陽気だな。そして呑気だな。

なんだこのじいさんは


「すみませーん」と声がした

「あ?客か?龍ちゃんその辺にいな」


「うん」

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