帝国湯へ、いらっしゃい
自惚れだと?そんなもの
「顔見れば分かるさ」
だから
言わせたい
言ってほしい
顔を少しずつ近づけて
親指で頬をなぞって
ああ
キスしたい
でも
唇まであと、数センチのところでやめた
「……そんなにビビらないでよ」
すっげー顔
目はギュッとつむって
口は一文字で
手は握りこぶしを作ってて
はあ
俺としたことが、焦りすぎだか?
ダメだ。
これ以上この場所にいたらホントにしちゃうな
「帰るわ」と言ってから、
脱衣場のカゴにあるTシャツを拾った
「風呂、ありがと。貴重な体験だったよ」
さて、Tシャツも着たことだし
「鍵、頼むわ。おやすみ」
浴場にさしかかった所で腕を掴まれた
………人を止めるのが得意なヤツだな
「何ですか?琴先生」
「あの、もう一度、チャレンジをお願いします」
…………
ダメだ。笑いが…
「プッ」
我慢できない
「ホント、予想外だな」
キスのチャレンジって何だよ
初めて聞いた
雰囲気を平気でぶち壊すくせに
誘い方もすっげーヘタクソ
でも
「じゃあ、キスの先生になってやるよ」
――――…………
「はい。ごちそうさまでした」
「……龍ちゃん…」
「ん?」
「あの、舌を入れるって聞いてない…」
ホントに面白いヤツだな
“すみません、次のキスで舌を入れてもいいですか?”なんて
聞いてからするヤツなんていないだろ