お姫様と若頭様。2nd
それは今日最後の接待でのことだった。
「初めまして、榎原さん。
私峯ヶ濱 財閥の後継者・峯ヶ濱楪です」
ありきたりな言葉を並べ席についた。
相手は日本でもかなり大きな会社の後継者で社長の一人息子の榎原さん。
歳は私より10歳ほど上の方だ。
そしていつものようにお互いの会社に関しての内容の話が進んで行った。
話も終盤に差し掛かりそろそろ話のまとめをしようとしていたところ…。
「ではこちらは「ところで楪さん。今日この後ご予定は?」…予定、ですか?」
私の言葉を遮って述べられたのは、そんな仕事とは関係のない言葉。
だけど相手が大きな会社の後継者ということもありあまり蔑ろにもできない。
「…特に決まった予定はございません」
だけど私にはこの後も仕事がある。
そんな風なことを伝えようとしたのに…
「そうですか。ではこの後私に付き合ってくれませんか?」
なぜか逃がさないと言うように私に続きを言わせない彼。
彼の魂胆は見え見えだ。
峯ヶ濱は世界でトップを張る財閥。
彼の会社はそれに比べたら、比べ物にならないほど小さな会社だ。
それは彼だって重々承知だろう。
でも何度も言うようだけど、
彼は日本において大きな会社の後継者。
いくら世界に名高い峯ヶ濱と言えど、
国内で味方が減るのは惜しい。
それを知ってこそ、
彼は私に迫って来ているのだ。
「素敵なレストランのディナーを
用意したんだ。
是非ご一緒したいと思いまして」
ここはきっと「はい」以外、彼には受け入れられない。
だから私もやはり頷くしかなくて。
彼が密かにニヤリと厭らしく笑ったことに本当に嫌な予感がしてならない。