人魚と恋
1日の授業が終わって、おれの掃除当番も終わって、部活の人らは部活に、帰宅のやつらはもうほとんど帰った。
おれは司路と約束した購買に行くべく、教室を出た。やっぱりおかしい。いつもなら、せめておれが掃除してる間に買ってくるのに。
「なあ、今日変じゃね?司路」
「あー…そうかあ?なんでだろうなあ」
聞いてもはぐらかす。本当に今日はおかしい。でも思い当たることがなさすぎて分からなかった。考え込んでたのと、さっきの質問のせいか、購買まで黙っておれらは歩いてく。
この時間にこの廊下は人が本当に少ない。購買は学校の端だし、下手したら知らないやつもいると思う。そんな人が少ないところに、女子が1人、購買の手前で立ってた。
「あれ?」
よく見ると、中学から一緒で隣のクラスの如月(きさらぎ)さんだった。おれも司路もよく話す数少ない女子の1人だ。大人しい子で、あんまり目立たなかったこの子に司路が
「珍しい苗字だね」
って話しかけて
「おれは下の名前珍しくて、司路って言うんだよね!
珍しい名前同士よろしく〜」
なんて言って仲良くなって、気が付いたらおれも話してた感じ。
「あれー如月さん、どうしたのー?」
司路が如月さんに話しかける。
「あー購買に来たんだけど、もう閉まっちゃってたんだ〜」
「えっうそ!おれも購買に来たのに!
ギリギリ間に合うかと思ったらギリギリ間に合わなかったか〜」
残念残念、と言いながら司路はおれの方をチラッと見た。
「あ、ああ、じゃあもう帰るか。
てか今日買わなくて大丈夫なやつなわけ?」
「あ、それは大丈夫!
そうだな、じゃあ帰るか〜」
司路はえらくゆっくりUターンしてまた教室に戻ろうとした。
「あっ…航くん!」
おれは振り返る。
「なに?」
「あ、あの、ちょっと話、今いいかな」
え、なにと言う前におれは司路に背中を押され、無理やり如月さんの前に出された。司路はそれじゃごゆっくり〜おれ先教室で待ってるから!と言って走ってった。
「あ、ありがと司路くんっ…
…あ、ごめんね、航くん。
あの、どうしても話したいことあって…
あの、さ、航くんて今、つ、付き合ってる人いる?!」
如月さんは両手を握り締めておれの方を向いた。夕日のせいか、だいぶ顔が赤いように見える。
「いや…
でも、好きな人はいるよ。」
もし、万が一、この空気的に、告白だった時を考えて先手をうってみた。
でも如月さんは俯きはしたが、あからさまにがっかりはしていなかった。
「実は…知ってるよ、そのこと。」