人魚と恋


1日の授業が終わって、おれの掃除当番も終わって、部活の人らは部活に、帰宅のやつらはもうほとんど帰った。

おれは司路と約束した購買に行くべく、教室を出た。やっぱりおかしい。いつもなら、せめておれが掃除してる間に買ってくるのに。

「なあ、今日変じゃね?司路」

「あー…そうかあ?なんでだろうなあ」

聞いてもはぐらかす。本当に今日はおかしい。でも思い当たることがなさすぎて分からなかった。考え込んでたのと、さっきの質問のせいか、購買まで黙っておれらは歩いてく。
この時間にこの廊下は人が本当に少ない。購買は学校の端だし、下手したら知らないやつもいると思う。そんな人が少ないところに、女子が1人、購買の手前で立ってた。

「あれ?」

よく見ると、中学から一緒で隣のクラスの如月(きさらぎ)さんだった。おれも司路もよく話す数少ない女子の1人だ。大人しい子で、あんまり目立たなかったこの子に司路が

「珍しい苗字だね」

って話しかけて

「おれは下の名前珍しくて、司路って言うんだよね!
珍しい名前同士よろしく〜」

なんて言って仲良くなって、気が付いたらおれも話してた感じ。

「あれー如月さん、どうしたのー?」

司路が如月さんに話しかける。

「あー購買に来たんだけど、もう閉まっちゃってたんだ〜」

「えっうそ!おれも購買に来たのに!
ギリギリ間に合うかと思ったらギリギリ間に合わなかったか〜」

残念残念、と言いながら司路はおれの方をチラッと見た。

「あ、ああ、じゃあもう帰るか。
てか今日買わなくて大丈夫なやつなわけ?」

「あ、それは大丈夫!
そうだな、じゃあ帰るか〜」

司路はえらくゆっくりUターンしてまた教室に戻ろうとした。

「あっ…航くん!」

おれは振り返る。

「なに?」

「あ、あの、ちょっと話、今いいかな」

え、なにと言う前におれは司路に背中を押され、無理やり如月さんの前に出された。司路はそれじゃごゆっくり〜おれ先教室で待ってるから!と言って走ってった。

「あ、ありがと司路くんっ…

…あ、ごめんね、航くん。
あの、どうしても話したいことあって…

あの、さ、航くんて今、つ、付き合ってる人いる?!」

如月さんは両手を握り締めておれの方を向いた。夕日のせいか、だいぶ顔が赤いように見える。

「いや…
でも、好きな人はいるよ。」

もし、万が一、この空気的に、告白だった時を考えて先手をうってみた。

でも如月さんは俯きはしたが、あからさまにがっかりはしていなかった。

「実は…知ってるよ、そのこと。」
< 27 / 68 >

この作品をシェア

pagetop