人魚と恋
それから、ゆうさんの様子を見にちょこちょこマンションに行くようになった。
その度に、メールをしても、ゆうさんはそれを忘れてた。
きっと、いっぱいいっぱいなんだと思った。だから、おれのことでまで迷惑かけたくなくて、甘いものを持ってった。
そんなことが繰り返されたある日、
ゆうさんを待っていたら、いつもよりずっと疲れた顔のゆうさんが帰ってきた。
その顔が本当にいつもよりずーっと疲れていたから、おれはどうにかしなきゃ、と思って、スーパーに走った。
スーパーで、俺のお気に入りの美味しいアイスを買って、ゆうさんの家に向かって走る。
ゆうさんの家に着くとチャイムを鳴らした。ゆうさんが出る。
「あ、航くん、今日いなかったから、来ないのかなって思っちゃったよー
とりあえず入って〜」
ゆうさんに鍵を開けてもらいゆうさんの家に入る。
はは、待ってれば良かったね、なんて、疲れた顔で笑うゆうさん。
おれは買ってきたアイスをゆうさんにさし出した。
「このアイス…本当に美味しくって、
おれはいつも落ち込んだ時とか、これ食べて元気出してるんです。
だから、良かったら食べてください。」
ゆうさんはさっきとは違う優しい顔をしながらわあ、ありがとう、このアイス私も大好きだよ〜といってにっこり微笑んだ。一応作ってきたお菓子も渡して、2人で食べることになった。
「あの、すいません邪魔して…」
「いいのいいの!
航くんと会って充電しなきゃやってられないよ〜」
ゆうさんの言葉に顔が赤くなるのを自分で感じながらありがとうございますと小さく言った。
「アイス美味しい〜アイスは夏じゃなくても美味しいね。」
「な、夏になったら、海にでも行きましょうか」
夏にはそれくらいの余裕がゆうさんに生まれている祈りを込めて言った。
「あっあたし海ダメなんだ〜実はカナヅチでね。もうぜんっぜん泳げないの。
あ、でも」
何を見ているかは分からなかったが、ゆうさんの視線は壁に注がれていた。
「行きたいなって思う海があってね。
それは絵本の中の海なんだけど、それに◯◯に似てる海があるんだけどね、人魚みたいに泳げるようになったらそこに行きたいな」
人魚みたい、という独特の言い方が少しゆうさんらしいな、と思いながら、じゃあ2人で特訓してそこ行きましょうねと話した。
少しして、ゆうさんが突然立ち上がった。
「アイスと日頃のお菓子のお礼にいいもの見せてあげるよ〜」
そういって奥でごそごそしたあと何かを大事そうに持ってきた。
「これだよ〜」
見せてくれたのは1枚の写真だった。
少し古いその写真にはスーツの女の人とセーラーの女の子が写ってる。
2人ともゆうさんぽいが、おれはゆうさんが前に姉と2人姉妹だったと言っていたのを思い出して、お姉さんですか?と聞いた。
ゆうさんはとっても笑った。
「あははは、これは私と妹だよ」
おれは、あれっと思った。
確か、前に姉と2人って…
「私はねー妹と2人姉妹なの。
この子は目立たない子でね〜
実は新しく行ってる学校にいるんだよ」