人魚と恋


もうおまえまじなんなの、そんなやつとは思わなかった、とかなんとか言う司路に俺は足元が崩れていく気がして掴みかかった。


「どういうことだよ。
おれはそう妹さんにも、本人にも言われたんだぞ?」

最早泣き出しそうだった。
何がなんなのかわからなかった。


司路は掴む俺の手を抑えて、俺をなだめる。

「ま、まあ、落ち着けって。
でも、ゆうさんの名前は山村 優美のはずだぞ。
吉田さんとゆうさんが写ってるアルバム見せてもらったら、そこにちゃんと書いてあったし、高校の友達も名札にそう書いてあったって言ってたし。

と、とにかく、今は名前より本人だろ。
どこにいるか検討つかないのかよ?」


おれは考えた。
ゆうさんの本当の名前すら知らない俺だけど、それなりに見てきたはずのゆうさんのことを考えてみる。


「と、とにかく家、家行ってくるわ。」


おれは司路の方を振り返らずただただ走った。
< 59 / 68 >

この作品をシェア

pagetop