人魚と恋




ゆうさんのマンションに着いて、郵便受けを見ると前より郵便物が溜まっていた。あそこに今のゆうさんのヒントは無さそうだ。


ゆうさんの部屋の前まで行った。ご近所迷惑も考えたが、ゆうさんを呼んだ。

「ゆうさん…っ」

ドアの向こうからは音も何もしなかった。

「ゆうさん!?」


思わずドアのノブに手がかかる。
気が付けばドアは開いていた。ドラマや映画なんかのフィクションの世界では、この次の展開はお決まりのように感じられたが、そんなモノがないことを祈りながら部屋に駆け込んだ。


「ゆうさん…!!」



結果として、そういうモノはなかったが、ゆうさんもいなかった。部屋は以前来た時よりはるかに荷物がごちゃごちゃしていた。
その中で必死に今のゆうさんに通じるものを探す。

しかし、物が多く、整理されていた頃の面影もない今、何が手がかりか全く見当がつかなかった。そこで、あることに気がついた。部屋にかかってた唯一の額斑が、机の上に乗って、額が少しズレていた。


額の中は本の挿絵のようだった。

綺麗な海に人魚が1人自由に泳いでいる。額を外してみると、他にも何枚かおよそ同じ本の挿絵が入っていた。

数枚の挿絵から考えるに、人魚姫の話のようだ。
だが、ゆうさんの話を信じるならば、ゆうさんは泳げない。カナヅチだ。いや、そんな人が何故あえて人魚姫を部屋に飾るんだ?それこそおかしい。


挿絵は少しボロボロになっていて、俺はそのうち1番上になっていた挿絵だけを掴んで部屋を出た。

これからどうする?


ゆうさんのマンションの長い廊下を歩きながら、頭をこれまでしたことがない位高速回転させる。
ゆうさんはどんな思いで、何をしようと思ってここを歩いたんだろう。

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