人魚と恋




天気があんまり良くなかったせいなのか、その海は挿絵にはあんまり似てなかった。けど、行った以上あとに引けず、とにかくゆうさんらしき人がいないか探した。
海はごうごうとその力強さを主張するように波立っている。



それから自分では気が付かぬうちに時間がどんどん過ぎて、あたりがどんどん暗くなってきた頃に、海の近くの人影を見つけた。
嫌な予感がして、駆け寄る。



「ゆうさんっ」


それはゆうさんだった。
前よりずっとボロボロになって、痩せてしまったゆうさんの姿があった。

俺が近くまで行った時、ゆうさんは腰までもう波に浸かっていた。


「ゆうさん!危ないですから!
こっち来てください!!!」


ゆうさんはやっとこっちを見る。
しかし戻っては来ない。

「航くん、大丈夫だよ。」

弱々しく笑うゆうさん。泣きそうだ、と思った時には泣いていた。


「ゆうさん、危ないですから。
お願いです、こっち来てください。
明日からちゃんと話聞きます。
一緒にいます。ゆうさんの助けになりますから…
戻ってきてください…!!」


泣きながらゆうさんに近寄って海に入って行くと、流れの強さに驚いた。
これ以上行くのは俺だって危ない。まして、今の弱々しくなったゆうさんなら…

「ここはね、この海だけは私大丈夫なの。」

ゆうさんがぽつりと言った。

「だめですよ!
こんな流れだって強いし危ないし、ゆうさん泳げないって前言ったじゃないですか!
早く沖に上がりましょう!」


ゆうさんは悲しげに俺を見る。
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