金木犀のアリア
 大学受験の際。

実技のピアノ演奏で幾つかミスをし、詩月は演奏を建て直すのに苦労した。



幸い、さほどの減点にはいたらなかったが、あのミスが実際。



風邪による発熱のためだったのか?



指の異常のせいだったのか?

定かではないことが尚更、不安を募らせる。


漸くして、回ってきた診察。


医師は普段の練習時間と練習方法、コンクール経験と現在弾いている曲を尋ねた上で、その場で1曲ヴァイオリンを弾かせた。



合わせてレントゲン検査とCT検査と触診による、医師の見解は思う以上に厳しいものだった。



「その指使いで、よくそれほどの音を出せるものだ」


険しい口調で言いながら、医師は念入りに、詩月の指を触診する。



< 133 / 233 >

この作品をシェア

pagetop