金木犀のアリア
「薬を使い、痛みを鎮めたり炎症を抑えることはいくらもできる。

だが、そのためにより強い薬でなければ効かなくなる。

そうして幾人の演奏家が潰れていったことか……」



怒号の後。

医師は声を落とし、救えなかった多くの患者の顔を思い浮かべてでもいるように、哀愁に満ちた顔をして弱々しく語った。



「まだ、大丈夫だ。最低でも半年、辛抱し用心しなさい」



膝の上に置いた指を見つめて、詩月は項垂れている。



「君の場合は、痛み止めも炎症を鎮める薬も、幸か不幸か、まだ強い薬を使わなくてもよさそうだ」



俯いた詩月の手の甲にポツリポツリ、涙が落ちる。



「湿布薬と塗り薬、それとテーピング。

飲み薬は極力、弱いものしか出さない。

あとは辛抱しだいだ」



嗚咽が漏れる。



「週2回、診せにきなさい。

その時にリハビリ療法も受診できるように手配をしておこう」


詩月は嗚咽しながら礼を述べた。

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