金木犀のアリア
「貴方はヴァイオリンを捨てられない。

貴方は音楽を捨てられない。

もう1度、『懐かしい土地の思い出』を貴方と弾きたい」



大学前の喫茶店で、彼女は彼に優しく微笑んだ。



それっきり、彼は喫茶店には足を運ばなくなり、彼女にも会わなくなった。



 その後、彼は喫茶店のマスターから、「春先から彼女が体調を崩している」と伝えられた。



 夕暮れの「宵待草」を思い出す時。


彼は彼女に会いたいと思う気持ちがこみ上げる。



もう1度、あの「懐かしい土地の思い出」を……と思いつつ、彼は指を見つめた。


< 139 / 233 >

この作品をシェア

pagetop