金木犀のアリア

5話/噂と親の七光り

 朝から、どうも空気が違っている。


行き交う学生、話しかけてくる学生も皆がよそよそしい。


隙を見てはヒソヒソ話をしている。



 昨日、詩月が帰宅すると、母親はテーピングした手を見るなり顔色を変えた。


腱鞘炎の辛さも痛みも、全てを知っている母親は、何もかも見通していて、隠しだてしてもと思った詩月は、様々聞かれる前に全てを伝えた。



母親はひどく悲しそうな顔をしたが、「無理をしないように」と言ったきり、他には何も言わなかった。



 夜中に珍しく目が覚め、キッチンに行き、水を1杯飲もうと母親の部屋の前を通った時。


部屋の扉の隙間から母親が背を丸め俯き、声を押し殺し泣いているのが見えた。

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